ミューラルを描く上で欠かせないものといえば、壁。
WALL SHAREでは、建物の壁を貸してくださるオーナーさんを、“壁主”と呼んでいます。
「なぜ壁を貸してくださったのか?」
「描かれた作品について、どう思っているのか?」
そんな疑問にお答えするべく、広報・おかゆ川が壁主さんへインタビューを行う企画。
interviewer&Text おかゆ川
今回お話を伺ったのは、渋谷駅から徒歩1分の場所にある山路ビルのオーナー・山路和広さん。
ビルの1階には、おじい様の代から75年続いた・古書サンエー(2022年6月に閉店)があり、2階にはご自身が手掛ける古本屋・Flying Booksが併設されています。
シャッターの作品は、リラクゼーションドリンク「CHILL OUT」と共同で行った「CHILL ART」プロジェクトの一環として描かれました。コロナウイルスで影響を受けた渋谷のまちを、アートで活性化することを目的としたプロジェクトです。
気になりすぎる、渋谷にある唯一無二の古本屋さん
おかゆ川(以下、O):実はインタビュー前から、山路さんのお店について気になって仕方がなかったんです。
山路さんが運営されている古本屋では、国内外のちょっとマニアックな古書など他では見られないような本を取り扱っていらっしゃいますよね?
山路さん(以下、Y):たしかに、取り扱ってる本のジャンルは幅広いです。ファッション、アート、建築などビジュアルに関連したジャンルから、宗教とか精神世界に関連した本もあります。逆に日本の文学は扱ってるお店が多いので、詩集以外は置いていないです。
O:想像以上に幅広いですね。
ちなみに、どんな経緯からFlying Booksを始められたんでしょうか?
Y:僕がFlying Booksを作ったのは、 「出版されたのは何十年も前だけれど、まったく古臭くなく、今見てもかっこいいと思える本を次の世代に伝えていきたい。また、今起こってるカルチャーも未来につなげて行きたい」という想いからでした。そういった経緯から、お店では本だけでなく、定期的にイベントやワークショップを開催してカルチャーに触れる機会を作っています。
O:なるほど。山路さんのお店が、様々なカルチャーに出会えるような場になっているんですね。個人的に、トゥバ共和国の方をお呼びしたホーミー(モンゴルの伝統的な歌唱方法)のワークショップがとても気になっていました!
お店にはどんなお客様がいらっしゃるんですか?
Y:老若男女問わず、色んな方がいらっしゃいますね。近くにクリエイター関係の学校が多いので、10代の学生さんもよくいらっしゃいます。アート関係だと、KAWSさんが以前いらしゃったり、去年はクリスチャンディオールのディレクター をやってるキム・ジョーンズさんが来てくれたりとか。海外の方も含めてリピートして訪れてくださる方がいてうれしいですね。
この仕事をやっていて思うのは、老若男女、国内国外関わらず本好きな人ってどこか同じバイブスを持っていてすぐにつながることが出来るんだなと強く感じます。
O:学生さんから著名な方まで、本好きな方の好奇心を刺激する山路さんのお店に集まるのも頷けます。
ロサンゼルスで見た、まちを変えるミューラル
O:プロジェクト期間中はコロナ禍の真っ只中でしたが、当時の状況はどういう感じでしたか?
Y:お店の周りは飲み屋さんが多い場所なので、影響はすごくありました。いつも夜はすごく賑やかな所なんですけど、とても静かになっていたり。緊急事態宣言があった時は休業要請で古書店も閉めなくてはならなくて、1か月間お休みになることもありました。近くに住んでいる方は変わらず来てくださっていましたが、お客さんの数が減ってしまう時期もありましたね。
O:「建物のシャッターに絵を描く」という話を聞いた時、率直にどう思いましたか?
Y:建物に描かれること自体に抵抗はなかったし、クオリティの高い作品がまちにあることに関しては、すごくウェルカムなことだなと思っていました。
アメリカへ本の買い付けに行っていた時に、ロサンゼルスのダウンタウンにある大きなミューラルをたくさん目にしていたんです。元々は治安が悪くて危なかったり、壊れている建物があったりした場所だったんですが、ミューラルを描く人達がまちを変え、どんどん明るく、きれいになっていったんです。1年に1回のペースで訪れる度にまちが変わっていく様子を見て、ミューラルっていいなと思いました。実際に見たのは、「The Seventh Letter」という人たちや、「RETNA」、「Mister Cartoon」というアーティストなどが描いた作品。彼らの作品はクオリティが高くて、素晴らしいなと感じました。
O:なるほど。
海外でクオリティの高い作品を観て、ミューラルの魅力を肌で感じていたからこそ、建物に絵を描かれることへのご理解があったんですね。
Y:そうですね。
作品自体もそうですし、アートからまちが明るくなっていく様子を見ていたことも大きいですね。
O:今回は、リラクゼーションドリンク「CHILL OUT」の商品をモチーフにしたミューラルを制作しましたが、プロジェクトに協力しようと思った決め手は何でしたか?
Y:決め手は、クオリティの高い作品がまちに増える部分に面白さを感じたからです。
事前資料でPHILさんとFATEさんの制作実績を見ていたので、完成度の高い作品を描いていただけるという信頼感がありました。賃料だけが決め手ではないですね。
シャッターから生まれる会話のきっかけ
O:では実際に完成した作品を見て、どんな印象を抱きましたか?
Y:PHILさんとFATEさんが描いた作品のような写実的で立体的な作風のミューラルを初めて見たので、緻密な表現にすごく感銘を受けましたね!作品を目にした人や友達の中には、写真だと思っている人が結構多かったですね(笑)。「いや、これは写真じゃないんだよ。近くで見てみな。」と言って、見てもらったりすることも。制作過程も見ていたんですけど、制作風景を見ているのも楽しかったですね。
O:壁画を描くために、シャッターを貸して良かったなと感じる部分があれば教えてください。
Y:元は普通のシャッターだった所から、今までにはなかったような会話のきっかけが生まれる部分ですね。
例えば、同じくシャッターにミューラルを描いた建物のオーナーさん同士で話したりしたことがあって、このプロジェクトがなかったら話す機会すらなかったんじゃないかな。
ちなみに、IZAKAYA VINさんのシャッターに描いていたESOWさんは、自分で作品を持っているぐらい好きな作家さんだったんです。ESOWさんが十何年も前に作ったZINEも持っています!(笑)
O:まさか山路さんが、ESOWさんのファンだったとは!
シャッターに描かれたものがクオリティの高い作品だからこそ、人に思わず話したくなるようなきっかけになったのかもしれませんね。
最後に、記事を読んだ方へメッセージをお願いします!
Y:今回のプロジェクトのような動きがもっと広がったらいいなと思います。町内会の中でいろんなアーティストさんの世界観で同時に彩られていく様子は面白かったです。これからもまちにミューラルが広がっていく事を楽しみにしています。