大阪・富田林市がまちの知名度向上を図るために新たなブランド施策として実施している「富田林ミューラルプロジェクト」が、2022年10月から進んでいます。第3弾として、富田林市市民会館(レインボーホール)の外壁に2024年11月に新しいミューラル作品が完成!
プロジェクトは、富田林市が実施している、「富田林市若者会議」のメンバーによる提案からスタートしました。どのように進められてきたのか、企画を担当された富田林市役所の正木邦彦さんと泉井直哉さん、そしてレインボーホール館長の坂井和美さんに、制作について振り返っていただきました。
富田林市内で増えているミューラルの数々と背景
ー「富田林ミューラルプロジェクト」の第3弾が完成しました。率直に、感想をお聞きしてもいいでしょうか?
坂井和美さん(以下、坂井さん): レインボーホールの西側壁面に描かれた健やかなブルーの龍は、インパクトがあるので話題にあがることも多いですね。レインボーホールに来られた方にも、喜ばれているという声が届くこともあります。電車からも見えるので、車内にいる時に、レインボーホールの前で歓声が上がっているのを聞いたこともありますよ。
正木邦彦さん(以下、正木さん): 描かれている龍のテーマは、地元の喜志小学校で5年生の意見を拾い上げるワークショップを経て、テーマが決まりました。そのプロセスがとてもよかったなと思います。子どもたちが大きくなった時に、「あれは、僕らの意見から生まれた作品なんだな」と思ってもらえると嬉しいです。
ー子どもたちにとってもいい機会になったと思います。富田林市で進んでいるプロジェクトですが、発足の流れと背景を改めて振り返ってもいいでしょうか?
正木さん: 2021年から始まった富田林市若者会議の第一期施策として、プロジェクトは誕生しました。「富田林市のまちに、ランドマーク的なものを作りたい」という想いから、市内に5つのミューラルを作って、観光所を巡る御朱印巡りのようにできないかという提案でした。
富田林が進めている若者会議は、行政だけでは思い浮かばないアイデアを吸い上げたいという思いからスタートしたのですが、ミューラルという提案はまさに、市の職員だけでは生まれない提案だったと思います。
泉井直哉さん(以下、泉井さん): 富田林市がWALL SHAREにミューラル制作を依頼し、2022年に1作品目として、金剛東中央公園に誕生しました。作品のテーマは「Over the moon(オーバー ザ ムーン)縁あるまち」。「Over the moonは、嬉しすぎて月まで飛んでいっちゃいそうなくらい幸せという意味がある。この場所に訪れた人々が幸せな気持ちになって欲しい」という、若者会議委員の想いが込められています。
ー開会式当日は、多くの富田林市民の方が集まってくださりました。その次の制作は、2023年3月でしたね。
正木さん: そうですね。第2弾は、近畿日本鉄道株式会社(以降、近鉄)と富田林市の協働プロジェクトで、近鉄さん主導で進めていただきました。近鉄の美装化計画のひとつ、近畿日本鉄道 南大阪線・長野線 「“アートのあるまち、南大阪”プロジェクト」の一環で、近鉄富田林駅に白羽の矢が立ったんです。富田林にある寺内町は、大阪府唯一の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。その寺内町をイメージした装飾を設置した駅へとリニューアルする計画の際の装飾のひとつとして近鉄富田林駅のロータリーに新たなミューラルが誕生しました。
泉井さん: 近鉄さんにも富田林市にもミューラルを作った経験があることを知っていただいていたこともあり、駅の入り口にあたる場所にアートを飾ろうという話になったんです。
3作品目となる、“龍神ミューラル”の誕生ストーリー
ーそして2024年11月に完成した、今回の3作品目。今回描かれた龍は、粟ヶ池に住んでいた雄の龍の伝承がモチーフになっているんですよね。
泉井さん: はい、先述したように、小学校でのテーマ決めのワークショップはとても盛り上がりました。多くの意見が出た中で、おじいちゃんに龍伝説の話を聞いたという子どもがいたんです。その話がベースとなり大きなテーマとなりました。
ホールの近くに、粟ヶ池という大きなため池があるのですが、そこに住んでいた龍神が描かれています。龍神は恋焦がれていた狭山池(大阪狭山市)に住む雌の龍のところに、毎晩会いに行っていました。それを知った村人たちが2体の龍のために、狭山池に祠を立てたことで夫婦の龍が狭山池で仲良く暮らしたというお話です。(※諸説あり)
正木さん: レインボーホールの隣にある龍神社には、和爾神が祀られています。この神様こそが、かつて粟ヶ池に住んでいた龍神だったといわれています。粟ヶ池は大きな池なので、地元の人は知っていますが、龍神社は意外と知られていないスポットでもあるので、この機に掘り起こしてもらえてよかったです。
ー作品制作期間、見守ってくださったレインボーホール館長の坂井さん。作品についていかがでしたでしょうか?
坂井さん: 制作過程は感動的な体験でしたね。当初は、龍の顔の部分だけ描く予定だと伺っていましたが、イメージ画像をもらった時は、全身になっていて驚きました(笑)。龍の顔から描き始めたんですけど、まだまだ暑い時期で大変そうでしたね。まず下書きに白い色を塗られていた時点では、どうなるか想像できませんでした。あっという間にいろんな植物や鳥が描かれて、だんだん出来上がりが変わっていく様子は興味深かったです。高さや奥行きもある外壁に、フリーハンドで描いていく様子はシンプルにすごい技術だなと思いました。
ーちなみに、制作中に市民の方へのトラブルなどはなかったですか?
坂井さん: 高い場所に描くので、クレーンを使用するため、通行人の方への影響がないかどうか少し気になっていましたが、何もなかったです。制作中も、「まちが明るくなるいいことをやっているね」と通行人の方にお声をいただくこともありました。ペンキが落ちてくることもなかったです。
ーよかったです、安心しました!
泉井さん: ミューラルには、富田林市に生息する植物や野鳥が多く描かれています。アーティストのtwooneさんが近所を歩き回って見つけた生き物です。
坂井さん: 描いている時に音楽をかけていると鳥が寄ってきたので、それを描いたと言っておられたのも印象的でしたね(笑)。
正木さん: 昔、レインボーホールは、結婚式場として使われていた場所で、この地域に長く住まれる方には、ここで結婚式を挙げたご夫婦も多いんです。そんな場所に子どもが選んだ絵が残っていくというのは、感慨深いことでもありますよね。
泉井さん: 完成日には、龍を描いた時の画材や落ち葉などを使ったワークショップをアーティストさんと共に行いました。子どもたちの描いた絵は、一定期間館内に掲示し、ご自宅に持って帰っていただいています。一連の出来事が、子どもたちの思い出に残ってくれていると嬉しいです。
2025年、その先に向けて
ー2025年も引き続き、プロジェクトは進行しますね。富田林市がアートやミューラルを通して伝えたい、まちへの想いについても伺いたいです。
泉井さん: 富田林ではまちのさまざまなスポットで、市民の作品を見てもらえるような「街角ミュージアム事業」も行っています。公共施設だけでなく、民間の飲食店や事業者さんのオフィスなどにアートを飾る活動です。ふとした瞬間に楽しんでもらえるものがアート。より身近に感じられる取り組みとして、続けていきたいと思っています。
市長も「街角ミュージアム事業」のPRにも積極的で、市長自らメディアや新聞社各社にリリース連絡などをしていることもあるくらいです。美術館に行かなくても、身近な生活の中で感性に触れることができる、そんな機会を市民に提供したいと思っています。ミューラルプロジェクトも同じ考え方で、今回の作品についても大変喜んでおられました。
正木さん: 「富田林市若者会議」も継続的に続けています。富田林市には府立高校が4つあるのですが、それぞれの高校の交流がありません。今年の若者会議では、合同文化祭をやろうというアイデアも出ています。若者や子どもが生き生きと元気いっぱいに表現できるまちづくりにより一層力を入れていきたいと思います。
泉井さん: 「富田林ミューラルプロジェクト」は、第5弾まで進める予定で動いています。2025年もまた新作が増えますので、楽しみにしています。
(参照データ)
富田林ミューラルプロジェクト